裁判ブログ編
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自分の言葉で語ることにした:なぜ元職場の千葉県庁・児童相談所に裁判を起こしたのか

けあけあ
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1 多くの人に千葉県の労働環境や一時保護所の状況を知ってもらった

 2019年4月に千葉県庁に児童指導員として入庁し、児童相談所の一時保護所に配属された私はその年の7月末にうつ病のため休職した。入庁してわずか4ヶ月経たない間に、心身はボロボロになっていた。翌年2月に復職したものの、その間に労働環境が変わっているはずもなく、2ヶ月経たず再び休職し、そのまま2021年11月末で退職となった。 

 その後とても幸運なことに、弁護士さんたちが弁護団を組んで私を支えてくださり、2022年7月下旬に千葉県庁に対して、未払い賃金や損害賠償を求めて裁判を起こすことになった。私は裁判を起こすこと自体に意味があると考えていた。ほんのわずかだけれど、労働環境がよりよくなるきっかけに、少しでも影響を与えられればという思いだった。

 予想外だったのは、多くの人が裁判を応援してくれたことだった。特にマスメディアの新聞社やテレビ局、フリーライターの方々がこれほどまでに裁判を取り上げてくれるなんて思いもしていなかった。新聞、テレビ、ウェブメディアなどを通じて、多くの人に裁判のことを知ってもらった。 

 裁判を報道してもらい始めた当初は主に「どうせお金のためだろう」「これで精神疾患をもった人が働きづらくなった」「裁判をすることはないだろう」といった賛否両論をSNS上で目にすることはあった。私としてはむしろ賛否両論の議論がされること自体が、児童相談所の労働環境や一時保護所のこども達の環境をよりよくするために必要だと感じていたため、とてもありがたかった。

2 なぜ自分の言葉で語る必要があるのか

 裁判を起こしてから2年がそろそろ経つ。裁判について多くの方々に記事にしていただき、裁判について知った方からもさまざま応援いただいた。

 児童相談所の一時保護所についても、2024年4月には運営基準が施行され、各自治体が条例制定の動きを見せている。千葉県も、今年の6月議会において、今年度中に条例制定の見込みという答弁があった。

 千葉県の労働環境も少しずつ変わっているらしい。昼の休憩時間を取るように促すようになったり、研修制度も変わっているみたいだ。

 一方で夜間の仮眠時間が休憩時間となっていることは変わらないし、ここ数年精神疾患による長期療養者の数も高止まりしている。千葉県の採用試験も、児童相談所に配属される「児童指導員」はここ3年ほど定員割れしており、現場では人員不足であることが推察できる。

 私は千葉県の現場の状況はかなり危機的なのではないかと感じている。それはいろんな統計データなどからも伺えた。

 2019年1月、千葉県野田市であるお子さんが亡くなった事件が起こった。管轄であった千葉県柏児童相談所の対応が猛烈に批判された。こんな事件は2度と起こってはいけない。私は2019年4月に千葉県庁に入庁した。

 正直私は迷っている。千葉県の児童相談所の人手不足の状況はとても危機的であるのにも関わらず、裁判を続けていいのだろうかと。これ以上に人が集まらない状況が続けば、本来支援を届けられる子どもたちに支援が届かないのではないかと。人手不足の影響は今だけの影響ではない。職員が増えないということは、その後新しく入ってくる職員を支える中堅職員の数が減るということでもあり、中長期の悪影響も考えられる。

 かといって、労働環境の悪い中、千葉県の児童相談所の職員が7%〜10%ほど精神疾患の長期療養を経験する状況のなかに、職員を飛び込ませていいのだろうかという思いもある。職員だって1人の生身の人間だ。その人たちの人生が犠牲にされていいはずが絶対にない。

 児童相談所の職員になろうとする人たちは、本当に多くの人たちが真摯に仕事に取り組もうとしている。児童相談所の勤務は過酷だと、おそらく多くの人は耳にしたことがある。それでもその仕事に就こうという背景には、自分や身近な人たちが大変な思いをしているのを見ていたり、子どもたちに何かできないかと真剣に将来を考え抜いた末に、この業界を選んでいるように思う。実際、私が多く関わってきた児童相談所の職員には、そんな人たちが多かった。

 職員も、子どもたちも、1人の人間だ。どちらも健康に、誰からも傷つけられることなく、生きることが保障されている存在だ。そして、子どもたちを守ることは職員を守り、職員を守ることが子どもたちを守るといった状況にする必要があるだろう。

3 自分で伝えることと、他人に伝えてもらうことの難しさ

 だからこそ、今自分がやっていることについて、自分の言葉で語る必要があるのではないかと感じてきた。

 これまでは多くの人の協力のもと、裁判や千葉県の状況について、メディアを通じて伝えていただいてきた。それは本当にすごく助かった。

 自分のことを自分で語るというのは、本当に難しい。自分を客観的に見たり記述したり語ったりすることが求められるし、かつ当時の苦しい状況を思い出すことは本当に心身を消耗することになる。

 だから色んな方がインタビューしてくださり、私から言葉を引き出していただいたり、一緒に考える機会をくださったりしてきたのは本当にありがたかった。

 一方で、今回の裁判について取材して記事にしてもらう難しさもあることは感じてきた。

 そもそも児童相談所の一時保護所とはなにかという理解をすることにも苦戦されていたり、児童相談所と児童養護施設との違いなど制度も複雑なこと、なぜ今のような状況になっているのかも単純な理由ではなく複合的な要因が絡まり合っていること、そしてなかなか閉鎖的で情報も秘匿性の高い現場の状況を実感することなど、非常に理解に苦戦する記者さんが多かったように思う。

 理解に苦戦した分、文章にする際にもエネルギーがすごく必要なことだっただろう。誌面の制約、文字数の政策、立場中立的な制約などで、なくなく省略せざるをえない部分もきっとあっただろう。その中でも本当に多くの方々が、想いを込めて記事を作っていただいた。取材のみで記事にならなかったもの、お蔵入りになった記事も少なくない。感覚的には取材5件中1件記事になればいい方だったように思う。それほど記事にして伝えるのが難しい領域なのだと思う。

 ただありがたいことに、この2年間で取材いただいた中で、自分の裁判や千葉県の状況への客観的な見られ方を教えていただいたと思う。また語る中で、自分自身が当時のつらかった状況を消化しながら付き合う方法も生まれてきた。

 2年経つ今だからこそ、記事になりきれなかったもの、語りきれなかったものを、詳しく、自分の言葉で語る必要があるのではないかと思っている。

4 終わりに 今私ができること

私は直接現場にいるわけでもないし、何か大きな変革を起こせるような人でもないと思う。

でもこうやって何を考えて、今裁判を起こしているのか、文章にして伝えることが、今私ができることなのではないかと思う。

誰かが悪いとか言いたいわけでは決してない。

職員も子どもも健康で傷つけられない状況で生きることができる道を考えていきたいと思う。

私に答えがあるわけではないし、すごく迷っていながら生きている。

でも迷いながら考えるしかないと思っている。

どうか読者のみなさまにも一緒に考えていただければ、本当にありがたい。

考える材料として、私がなぜ今こんなことをしているのかこれから伝えていければと思う。

書くのにかなりエネルギーがいる分、更新のペースはそれほど多くはないと思いますが、どうか暖かく見守っていただければ幸いです。

運営者について
飯島章太
飯島章太
フリーライター
元児童相談所職員での経験を活かして、子ども・若者のケアに関わる人たちに取材を続けています。著書に『図解ポケット ヤングケアラーがよくわかる本』 。
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