子どもたちの背景を知らずに一時保護所で働くことの危うさ〜千葉県・児童相談所職員9日目〜
1 子ども達の背景を知らないままの通常勤務
シリーズ「なぜ元職場の千葉県・児童相談所に裁判を起こしたのか」の職員時代の勤務編です。
前回は、入庁翌日から、研修なしで通常勤務を始めた危うさについて記事にしました。
勤務から10日が経とうとした頃、私はようやくそのとき一時保護所のいた子どもたちがなぜこの一時保護所に入所することになったのかを、記録を通じて知ることができました。
逆にいえば、その10日間それらを知らずに子どもたちと過ごしていたことに怖さを覚えました。その辺について書いていきます。
2 一時保護所に保護された子どもたちの背景を知らない危険性
「9日目。退勤も早く、そこまで疲れてないかなと思うと、どっと疲れが背中に襲ってくる。案外神経を尖らせているみたいだ。今週は連勤あとに夜勤もあるので、なるべく体調を整えておく。
(4月9日日記)
そして今日ようやく接している子達の記録を読む余裕ができた。たしかに初めから記録を読まないことは、余計な先入観をもたずに接することにとって重要だったかなとも思う。一方で、やはり相手の背景もわからないまま、接しているのは怖いなとも思う。やはり背景を把握しながら、一方でその子と接する時には、それをひとまず置いておいて、注意すべきこと以外は、フラットに接することができることも大事なのだろう。」
日記にも書かれているように、勤務から9日目の残業時間にようやく一時保護所にいる子どもたちが、なぜ一時保護所に保護されることになったのかに関する記録に目を通し始めました。
日記では、なぜこれまで子どもたちの記録が読めなかったのか、職場の状況を好意的に捉えようとしていました。あえて新人職員には「先入観」(日記の言葉)を持たせないために、そうしているのかなと思っていました。
ですがその後勤務を続けると、そうではないことがわかりました。そもそも子どもたちの記録を読む時間が定時の時間にも残業時間にも確保されていないのです。
確かに、毎日の勤務のはじめには引き継ぎの時間が10分ほどあります。ですが、仮に子どもたちを40人とすると、1人15秒ほどしか引き継ぎの時間はありません。
引き継ぎの中では、例えば、新しくこの一時保護所に保護された子どもの名前や主訴(保護の主な理由:「虐待」「非行」など)は職員の間で共有されます。
ですが、それがいったいどのような「虐待」だったのか、「非行」だったのか、どんな特性・障害があるのか、といった詳しい理由については、記録をみなければわかりませんでした。また新人職員にとっては、今いる子どもたちがどのような理由で保護されているのかについても、記録をみなければわからない状態でした。
前回の記事で簡単にお伝えしましたが、定時の8時半〜17時15分の間の9割は子どもと関わっています。最後の1時間と残業時間で子どもたちの毎日を書き上げます。残業時間では、学習の準備、その他の雑務などがあります。
そのため、一時保護所に入所する子どもたちが、どのような背景があって、なぜ一時保護所に保護されることになったのかが書かれた記録を見るには、時間的にかなり余裕がない状態でした。
私の例でいえば、普段の残業業務が早めに19時で終わった勤務9日目に、はじめてその一時保護所にいた子どもたちの背景を知ることになりました。
子どもたちの背景をはじめて目にしたとき、背筋が凍りました。子どもたちの過酷な背景そのもの自体過酷でしたが、同時にその背景を知らずして子どもたちに関わっていた自分の危うさをとても感じました。
一時保護所の子どもたちに初めて会ったとき、その背景に過酷さを感じ取れない自分がいました。子どもたちと話したり、遊んだり、ある程度時間を過ごす中で、ふとした瞬間に子どもたちの感情が揺れたり、変化したり瞬間に出会うことが増えるときに感じたくらいでした。
だからこそ、目の前にいる子どもたちの背景を知らなかったことを、すごく後悔しました。勤務した9日間に、自分が無意識に子どもたちを傷つけいた可能性もあったのではないかと。
また毎日の記録についても、子どもたちの背景を知ることなしに、何がその日起こった事実のなかで記録すべきなのか、考えることができていなかったことも感じました。
その日以降、必ず子どもたちの記録には目を通すことにしました。
記録については、特に上司から資料をみるようにと職員に言われているわけではなかったこともあるのか、見ていない職員もいるようでした。この辺書くとショッキングなこともあるので、ここでは言及はしません。
なんにせよ千葉県の一時保護所の職員は研修がないだけでなく、子どもたちの背景を知る機会も確保されないまま、手探りで子どもたちと関わっている現状があるのだと、勤務をはじめて気づくことになりました。
3 終わりに
勤務をはじめて9日目にして詳しい子どもたちの背景をしった私でしたが、勤務を続けるにつれて、一時保護所のルールなどに違和感を持っていくことになりました。その辺は次の記事で書きたいと思います。
ちょっと蛇足かもしれませんが、児童相談所の一時保護所の子どもたちへの想像力を深める際に、とてもいいなと思った海外の映画をご紹介します。よかったらご覧ください(そのうち感想を記事にするかもです)
物語の舞台は、ティーンエイジャーをケアするシェルター“ショート・ターム”。ここで働く20代のケアマネージャー、グレイス(ブリー・ラーソン)と、同僚でボーイフレンドのメイソン(ジョン・ギャラガー・Jr.)。子供が出来たことをきっかけに、二人の将来はささやかならがも幸せなものになるかと思われました。でも実は、グレイスの心には、たったひとりの信頼できる彼にも打ち明けられない、深い深い闇が横たわっていたのです。そんなグレイスの心を次第に開いてゆくのは、やはり同じように心に傷を負ったショート・タームの子供たちと、新しく入所してきた、頭が良くて優しい少女ジェイデンや、ストイックでまっすぐな少年、マーカスでした。彼らはみな、親からの虐待やネグレクト、いじめを経験し、心を閉ざしてしまったこどもたちです。
「ストーリー」ショート・タームHPより
http://shortterm12.jp/
4 あとがき
今こうして記事を書いているのは、私のような職員が増えてほしくないと思っているためです。どうか反面教師としてお読みいただければ幸いです。