裁判ブログ編
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一時保護所のルールに、子どもも職員も萎縮した〜千葉県・児童相談所職員6日目〜

けあけあ
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1 一時保護所独自のルールの存在

シリーズ「なぜ元職場の千葉県・児童相談所に裁判を起こしたのか」の職員時代の勤務編です。

前回は、勤務をはじめてしばらく経つまで、子ども達の背景をしらないまま勤務していた怖さについて記事にしました。

子どもたちの背景を知らずに一時保護所で働くことの危うさ〜千葉県・児童相談所職員9日目〜
子どもたちの背景を知らずに一時保護所で働くことの危うさ〜千葉県・児童相談所職員9日目〜

今回は、勤務から1週間頃に感じていた、一時保護所のルールの厳しさは子どもも職員も萎縮させる、という点について記事にしていきたいと思います。

一時保護所のルールそのものについては、以下ですでに記事にしておりますので、こちらもよければご覧ください。

弁護士ドットコムニュース、2022年12月6日、「「早起き禁止」「パジャマ着たらトイレ行くな」一時保護所のルール”日課”に元職員が懸念」

2 ルールが必要な理由と逆効果としての萎縮

2−1 ルールが必要な背景

6日目、今日は平日以外の初勤務。どろだんご作ったり、シャボン玉浮かばせたり、お日様に照らされながら、ポカポカと過ごす。と思うと、午後はバトミントンしたり、豪速球のドッチボールしたりと、ハードに動く。今日は身体的な疲れの比重が多かった。

さて、最近の仕事の悩みは、どうやって子どもに「いけないこと」を注意するかということ。

「いけないこと」は、①殴る等の他の子や自分を傷つける可能性のあることと②集団生活だからこそそれを乱さないために言わないといけないこと、に分かれる。

①については、まだまだ悩み。怒るのは簡単だが、子ども達はいくつでも大体話せばわかる。が今の私はまだ、「いけないことがなぜいけないのか」を伝えようとする経験が足りないなと思う。

②については、集団生活だからこそ、普段ははっきり言わないようなことでも、言わないといけないことがある。とはいえ、あまりにそちらを重視すれば、子ども1人1人の声を聴くことはできない。

その集団と個人の重視のバランスが難しい。ここも経験で自分なりのバランスの取り方が身につくものなのだろうか。

4月6日 日記より

 入って1週間ほどになると、集団生活のなかでの職員としてどう振る舞うべきかに悩むようになっていました。

 特に悩んでいたのは、一時保護所独自のルールについてでした。

 一時保護所のルールは、本来こどもの安心や安全を守るために必要なものでした。ルールや日課がなぜ一時保護所のなかで普及することになったかについて書かれた記事などによると、保護される以前はさまざまな過酷な状況のなかで日々暮らしてきたため、子どもたちはむしろ一時保護所のなかでは決まった日課をこなすなかで、安定した集団生活を過ごすなかで、平穏に暮らすことが重要だと考えられてきたためのようです。

 「確かに退屈なこともあるけれど、安全に過ごせるからいい」と子どもたちが話す場面に遭うこともあります。

 その面からすれば、確かに一時保護所には一定のルールが必要だと思います。そこに安心感を持つ子がいるためです。

2−2 行き過ぎれば萎縮効果を呼ぶ

 ただ一方で、ルールが多過ぎたり、理由が子どもに説明できないくらい不明確であったり、子どもたちに明示できていなければ、それは子どもたちにとっては怖いことです。その点については、最初に紹介した記事で言及しています。

 この一時保護所のルールの厳しさは、千葉県だけではありません。記事を検索すればわかるように、ルールが厳しい一時保護所は少なくない場所であるようです。

私としては、なぜ一時保護所のルールがこれほどまでに厳しいのかについては、職員の労働環境が大きく関わっていると思っていますが(それを改善するために起こした千葉県への裁判については、その他記事をご覧ください)、

これらルールの影響は子どもたちだけでなく、新人の職員にとっても同様でした。

3 職員の育成体制(OJT)と新人の萎縮

3−1 「1回仕事を見たら、もう自分でできるようにしてね」

 前々回、以下の記事で研修なしで子どもたちと関わることの危うさについて記事にしました。

研修なしで児童相談所・一時保護所で働くことの危うさ〜千葉県・児童相談所職員2〜5日目〜
研修なしで児童相談所・一時保護所で働くことの危うさ〜千葉県・児童相談所職員2〜5日目〜

 では研修なくしてどう仕事を覚えていくかというと、基本的には勤務をするなかで、他の先輩職員の背中を見て覚えていくということがメインです。基本的には、先輩職員の仕事のうごきをみて、みようみまねでやり方を覚えていくしかありませんでした。

 ところで職員は、仕事中メモ帳やペンを持ち歩くことできません。万が一、メモを落としたときに子どもたちに見られないように、またペンで自傷行為をすることを防ぐため、と上司から教えられていたためです。

 そのため、先輩職員がよく言っていたのは「1回見たら、もう自分で仕事ができるようにしてね」ということでした。先輩たちの姿をみながら、記憶し、体を動かし、見様見真似で仕事を少しつづ覚えていくことになります。

 例えば、子どもたちの記録の仕方もみようみまねでした。先輩たちも統一した記録の仕方があるわけではなかったようでしたので、「今日は1日何にもありませんでした」という記録もあれば、詳細に記録をしている職員もいて、そうした過去のいろんな記録をみながら自分なりに新人職員は記録法を学んでいきます。

 ただ、一時保護所職員は子どもたちに関する重要な書類も書くことがあるのですが、これも「過去の資料をみて書いてください」と言われるのみでした。それが、誰からの指導もなく、研修もなく、みようみまねで行わなければならないというのは、本当に信じられませんでした。何よりその先の子どもたちのことが心配でした。

 他の例でいえば、残業代の申請の仕方についてすら、4月下旬に私たち新人職員からするまでは教えられていませんでした。

3−2 先輩への畏怖と一時保護所のルール

 私が先輩職員に抱いていたのは不満というよりは、畏怖でした。

 それはよく一時保護所のルールの面で感じていました。一時保護所のルールは、子どもたちだけでなく、職員(特に新人)をも萎縮させていました。

 一時保護所には本当に様々なルールがあります。新人職員としては、いったいどんなルールが、どこに書いてあって、それがなぜ守らなくてはいけないのか、について、全くわかりませんでした。

 よく一時保護所のルールの厳しさについて伝えるエピソードとして以下の出来事があります。

 食事の時間、ある子どもから「サラダにドレッシングとマヨネーズをかけたい」と言われたため、「まあいいんじゃないか」と思い私がマヨネーズ・ドレッシングを手渡した瞬間、先輩職員から「なにやっているんだ、そこ!」と怒号のような声が飛んできました。「マヨとドレッシングはどっちか一つだろ!」と子どもが怒られていました。

 私が怒られるのであればよかったのですが、私がルールを知らないことで子どもたちが怒られるというのは非常に問題でした

 そもそも一時保護所は、すでに家庭のなかで傷ついた子どもたちが保護される場所です。それにもかかわらず、数多く細かいルールばかりであれば、子どもたちは非常に息苦しく生活を過ごさざるをえません。そして、そんなルールを破り、職員から怒られたり、怒鳴られたりすれば、子どもの傷はより一層深くなるでしょう。

 一時保護所は、家庭以外で保護されてはじめて大人とすごす場所です。本来そこでは職員としては距離は近すぎず、遠すぎず、信頼関係を培う必要があります。にもかかわらず、子どもたちがそこで怒られたり、怒鳴られたり、理不尽な思いをしたと感じれば、社会にいる大人全体を信用できなくなる可能性が高くなります。それほど、一時保護所は重要な存在なのです。

 だからこそ、私はとてもこわくなりました。自分が、何かこの一時保護所のルールを、無意識にやぶっているんじゃないか、そしてそれで子どもたちを傷つけるのではないかとこわくなりました。

 ちなみに一時保護所には、先ほどのペンやメモを持ち歩かないといった決まりがあるなど、職員自身にもルールが課されていました。基本的なルール以外でいえば、ニットを着てはいけないといった服装のルールなど、細かいものがいくつかありました。

 また明示的なルール以外にも、先輩によっては注意されるルールもありました。例えば、トイレにいくタイミングですが、以前からいうように休憩時間はなく、トイレ休憩すらなかったため、仕事中にトイレにいかざるをえない場面があります。ですが、「今トイレに行っている時間じゃないのでやめてください」と怒られた新人職員がいました。

 ですが、どうもこの一時保護所のルールは、必ずしも先輩職員で統一してもっているわけではないということもわかりました。職員によって、これはルールだからいけない、これはルールではないのでいい、とばらつきがあり、いったい誰の話が本当なのかもわかりませんでした。

 あれも、これもしてはいけないというルールが、本当に無数に一時保護所にはありました。それも職員によってそのルールの厳しさも存在も変わっていきます。ルールに厳しい職員の場合には、なにかルールをやぶっていないかと、私もびくびくしていました。それは一時保護された子どもたちにとってもそうだったのではないかなと思います。

4 おわりに

 この記事では、一時保護所のルールが子どもたちだけでなく、職員(特に新人)をも萎縮させる点について記事にしました。

 休憩も取れず、夜勤もあり、残業も多い、通常勤務では見様見真似で手探りで仕事を覚えながら、一時保護所独自のルールで息苦しい、そんな勤務をしていた中、4月の末で1人職員が辞め、1人が別の部署に異動することになります。次回はそんなことを書いていこうかと思います。

 最後に、一時保護所のルールと子どもたちについて考えるうえで、とても参考になる本(以下収録の「一緒に起きてる」)があるので、こちらもよければご覧ください。

「【ママの友達】重い生理に悩む高1の星野と、妊娠のうわさをたてられたクラスの一軍女子・三上。それぞれの「おなかのなかの話」をきっかけに育まれるハートフル友情ストーリー! 【一緒に起きてる】ある日事故で家族を失った中2の川瀬天。喪失の果てに保護施設で出会ったのは、心に深い傷を負った1人の少女で…? やさしい希望の光に満ち溢れた感動のガールズサバイブ巨編! 「りぼん」の増刊号に掲載され、たちまち話題になった珠玉の2編を収録。」

集英社HPより
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?jdcn=08X10000000028068100
運営者について
飯島章太
飯島章太
フリーライター
元児童相談所職員での経験を活かして、子ども・若者のケアに関わる人たちに取材を続けています。著書に『図解ポケット ヤングケアラーがよくわかる本』 。
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