裁判ブログ編
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千葉県庁、「保育士」職の募集をほぼ倍に増やした件を考える

けあけあ
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1 保育士の50名募集

 千葉県庁は令和6年度職員採用試験において、「保育士」(資格免許職)を50名程度募集することがわかった。

 これは7月9日に公表された千葉県庁の受験案内の中で示されている。

 ちなみに昨年度の採用試験実施状況によれば、採用予定数28名に対して最終合格者が12名であり、昨年度から採用予定数をほぼ2倍増やすことになる。

 千葉県庁の場合、「保育士」として採用されると、「保育士等として児童相談所の一時保護所や児童養護施設、児童自立支援施設等で入所児童の生活支援等の業務に従事します(交替制夜間勤務などの変則的勤務があります。)。」(令和6年度受験案内)とあり、主に社会的養護に関する施設の保育士として勤務することが予定されている。

 採用予定数を増やしたということは、それだけ千葉県として職員の増員に予算がついたということだろう。

 本記事ではその背景について考察しつつ、課題・懸念点について言及する。

2 背景には一時保護所の運営基準(2024年4月施行)が?

2−1 背景

 千葉県庁の保育士の募集の人数は、ここ5年ほどは20人前後(最大は昨年度の28人)で推移してきた。最終合格者数も例年15名程度となっていた。

 それが令和6年度に50名募集するということは、昨年から今年にかけて大きな動きが背景にあったと考えるのが普通だろう。その背景の一つには、今年の4月に施行された「一時保護施設の設備及び運営に関する基準」があるように思う。

 これは児童相談所の一時保護所に関し独自に、職員の配置などの基準を設けたものだ。この基準が設けられる以前は、児童養護施設の児童福祉施設の運営基準が準用されていた。しかし、一時保護所は子どもたちの頻繁な入所・退所があることなど、一時保護所独自の基準を設ける必要性を踏まえて、上記の基準が設けられた。この基準では、以前よりも多くの職員の数が求められた。

 この基準に対応するため、今年の6月の千葉県議会によれば、上記基準に沿った条例の策定を今年度中に予定しているとのことであった。保育士の増員は、これらの基準を満たすために求められた増員であったのだろうと推測できる。

2−2 良い点

 国の基準に迅速に千葉県が対応しようとしている点は、とても良いことだと思う。

 そして「保育士」職の増員は一時保護所の職員の質を保つ上でも重要だと感じている。

 というのも、千葉県の場合、一時保護所に配属されるのは「保育士」のほかに「児童指導員」職も配属されることが多いのだが、後者は1〜2年経験した後に、「児童福祉司」の任用資格を得て異動する可能性が高い。

 だが、一時保護所からすれば、1〜2年で職員が一時保護所から異動してしまえば、それだけ職員の経験やノウハウなどの蓄積が難しくなってしまう。だからこそ、一時保護所のケアワーカーとして主に配属されることになる「保育士」の増員が、一時保護所の質を保つ上では欠かせなかった

 その意味では今回の募集の増員は、一時保護所にとってはとても重要だと思われる。

3 課題・懸念

 今回の職員の増員は好ましいものの、一方で課題・懸念も多い。

3−1 受験者数が採用予定数を満たすか(定員割れする可能性)

以下は、千葉県の過去の「採用試験実施状況」を表にまとめたものである。

表をみると、令和になって申込者数が50人以上となったのは令和3年のみである。また最終合格者数は、毎年20人以下である。

今年は、昨年度の最終合格者を4倍程度増やす必要があるが、現実的かどうかは懸念がある。

千葉県としては、今年度は定員割れをしたとしても、採用数を増やしていることをアピールして、徐々に最終合格者を増やしていきたい狙いかもしれない。

しかし、一時保護所の基準は国全体のものなので、他の自治体も保育士などのケアワーカーの人材の確保に力を入れることになるだろう。そのなかで、人員を千葉県が確保できるかは、以下の課題も乗りこえる必要がある。

3ー2 精神疾患による休職者の多さ

以前、「児童指導員」などの児童相談所の職員の精神疾患による休職率が高いことについては、以下の記事で書いた。

千葉県庁採用試験「児童指導員」職の定員割れの実施状況から思うこと
千葉県庁採用試験「児童指導員」職の定員割れの実施状況から思うこと

 メンタルヘルス不調による休職を経験する人たちは、民間企業では0.6%、地方自治体でも2.1%であるなかで、千葉県の児童相談所職員に関しては、9.3%であったことが、朝日新聞でも報道された(2020年度のデータ)。

 また千葉県議会議事録によると、児童相談所職員の休職・療養者は令和3年度31人(令和4年9月定例会-09月22日にて)、令和4年度40人(令和5年6月定例会-06月28日)、令和5年度46人(令和6年2月定例会−2月26日)となっている。

 この状況は、保育士においてもそれほど変わらない。千葉県議会議事録によれば、保育士の精神疾患による長期療養の割合は、令和3年度には4.1%だったものが、令和4年度には約7%、特に君津児童相談所・および東上総児童相談所の保育士においては16.7%ということもわかっている。

 こうした精神疾患による休職者が多い現状を改善しない状態では、人が集まらず、また休職者・退職者が増え、現場の人員が不足する状況が続くのではないだろうか。

3ー3 労働環境の改善の必要性

 精神疾患による休職者が多い背景には、やはり労働環境の改善が必要だからではないだろうか。

 私は児童指導員として一時保護所に配属されて、その労働環境の改善のための裁判を起こしているが(詳しくはその他の記事を参照ください)、一時保護所の保育士さんの状況も同じだった。

 昼休憩時間はなく、夜勤では廊下で子どもたちを見守っている時間を休憩時間とされたり、研修も十分ではない。そうした状況を改善することなしには、人材は集まってこないだろう。

4 終わりに

 一時保護所などの人員を増加する、千葉県のうごきは非常によかったと思っている。

 一方で、採用された職員の労働環境を守ることで、子どもたちと職員の健康を守ることも、同時に大事だろう。

 少しずつ改善のうごきはあると聞いているが、まだまだ課題も多いという現場の人の声も私のもとに届いている。

 どうか、子どもも職員も守れる千葉県であってほしいと思う。

運営者について
飯島章太
飯島章太
フリーライター
元児童相談所職員での経験を活かして、子ども・若者のケアに関わる人たちに取材を続けています。著書に『図解ポケット ヤングケアラーがよくわかる本』 。
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