裁判ブログ編
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千葉県庁採用試験「児童指導員」職の定員割れの実施状況から思うこと

けあけあ
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1 令和6年度の実施状況

地方公務員試験まっさい中のこの時期、千葉県でも職員採用試験が行われている。

私は2019年4月に千葉県庁に児童指導員職として入庁し、児童相談所の一時保護課に配属され、2021年11月末に退職した。退職後、私は2022年7月下旬に千葉県庁に対して、未払い賃金や損害賠償を求めて裁判を起こした。詳細は以下の記事で紹介されている新聞記事で詳しく書かれている。

新聞記事掲載情報
新聞記事掲載情報

千葉県の「令和6年度採用試験実施状況」によると、主に児童相談所に配属される「児童指導員」職は、採用予定数50名に対して、申込者53名、そして第1次受験者数36名第1次合格者数35名であった。ここからわかることとしては、

①第1次合格者数が、採用予定者数を下回っている(定員割れがすでに起こっている)。
②採用予定数と申込者数がほぼ同数である(この時点で定員割がほぼ確実)。
受験者の30%以上が第1次試験を受けていない(第1次試験の筆記で落とされたのは1名)。

以上の3点がわかる。

この傾向は、次で説明する通りここ数年変わっていない。

2 近年の採用試験の特徴

以下の図は、千葉県が公開していた平成28年〜令和5年までの「過去の試験実施状況」(現在は過去3年分のみ公開)をもとに、「児童指導員」職の実施状況を整理したものだ。

この図を見ると、令和6年度の傾向がここ数年変わっていないことがわかる。

①第1次合格者数が採用予定者数を下回っているのは、令和3年度から。
②採用予定数と申込者数がほぼ同数(or 下回った)となったのは、令和4年度から。
③受験者の30%前後が第1次試験を受けなくなったのは、令和3年度から(ただ毎年15名前後は受験しないことが多い)

またここ数年の実施結果を見ると、以下のような特徴も見えてくる。

①第1次試験(筆記)で受験者がほとんど落ちなくなったのは、平成29年度から。
 平成28年頃から虐待死を防ぐ国の方策として児相職員を増やす方針を固め、千葉県でも取り組み始めた時期。合格倍率も1倍代がこの時期から続いている。

②受験者の合格者数が減る理由の多くは、採用選考の辞退
 第1次試験や第2次試験で受験者が落とされる数よりも、以下の数の方が上回ることが多い。
 (1)申込はしたが、第1次試験を受けなかった
  例)令和5年度は12人辞退
 (2)第1次試験は合格したが、第2次試験から辞退した 
  例)令和4年度は9人辞退
 (3)最終合格はしたが、内定を辞退した 
  例)令和5年度は合格者23名、採用見込み13名
 (採用見込数については、千葉県議会議事録を参考)

③最終合格者が、採用予定数を大きく下回るようになったのは、令和3年度から

3 休職者・長期療養者が多く、代替職員が少ない

 職員採用試験においては、令和3年度から定員割れしていることがわかる。現場職員が令和3年度以降、急激な職員不足となっている状況が伺える。

加えて、千葉県の児童指導員の採用ができていないだけではない。休職者・長期療養の児童相談所職員が多い。

 これが大きく取り上げたのは、朝日新聞の「精神疾患で長期療養 千葉の児相職員、全職員平均より3倍超の水準」という記事だった。

「2020年度、精神疾患により1カ月以上の療養休暇を取得した県職員の長期療養取得率は、全体平均の2・7%に対し、児相職員は388人中36人の9・3%で3倍超だった。カウンセラーなどの心理職、児童福祉司に限れば4倍近かった。」

朝日新聞、2021年12月7日「精神疾患で長期療養 千葉の児相職員、全職員平均より3倍超の水準」
https://www.asahi.com/articles/ASPD73GJ2PD2UDCB00T.html

 ちなみに2022年度の調査だが、全国の自治体職員の休職の割合は2.1%である。

「2022年度に精神疾患など「精神および行動の障害」で1カ月以上休んだ自治体職員は、10万人当たり換算で2143人(2.1%)だったことが17日、地方公務員安全衛生推進協会の調査で分かった。1993年度の調査開始以降で初めて2千人を上回り、10年前の約1.8倍になった。年齢別は20代と30代が平均を上回った。」

共同通信、2024年2月17日「自治体、精神疾患で休職1.8倍 20代と30代目立つ」
https://nordot.app/1131471986903106473?c=39550187727945729

 さらにちなみに簡単には比較できないが、いわゆる一般企業を対象としている、厚生労働省の「労働安全衛生調査」によると、令和4年度メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者の割合は0.6%である。

 千葉県の児童相談所職員の精神疾患による長期療養の割合は、一般企業の労働者や全国の自治体職員と比較しても、極めて高い割合にあるようであることがわかった。

 この傾向は、令和3年度以降あまり変わっていない状況である。千葉県議会議事録によると、児童相談所職員の休職・療養者は令和3年度31人(令和4年9月定例会-09月22日にて)、令和4年度40人(令和5年6月定例会-06月28日)、令和5年度46人(令和6年2月定例会−2月26日)となっている。代替職員についても、例年10名程度の補充のみである。

4 正直私はどうすべきか迷っている

千葉県庁も何も対策をしてこなかったわけではない。受験者を募るために、愛知県で受験できるようにしたり、魅力を発信するためのPR動画やHPの作成など、ここ数年対策してきた。

だがここ数年の実施状況をみればわかるように、受験者が集まらず、最終合格者数も減り、定員割れが起こっている状況を変えることはできていない。 

だが本来必要なのは、法律の最低基準を守った労働環境の整備であるだろう。私が裁判をする以前から、千葉県の労働環境については業界の人たちのなかではいい話は流れていなかった。私が裁判を起こしてからも、労働環境が少しずつ改善はあるものの、大きくは変わっていないということも、関係者から聞こえてきた。

マズローの欲求5段階説を引用するまでもなく、自分の身の危険を感じるほどの労働環境の中で、やりがいを感じることなどできない。

その状況が変わってこなければ、変わったという発信がなければ、これからも採用には苦戦することが予測できる。

ただ思うことがある。

こんなことは、すでに千葉県庁もわかっているのではないかと。

PRや魅力発信など小手先の対策をしているのは、法律の最低基準の労働環境を遵守できるほどの予算がない、もしくは遵守するようにリーダーシップをとる責任者が不在しているからなのではないかと、最近感じてきた。

だから私は最近とても迷うのだ。誰かが悪いわけでもない。

私が発信することで、職員募集に影響があるとすれば、それはどうなんだろうと。

本来職員がいれば助かったはずの子どもたちに支援が届かなくなるのではないかと。

でも、このままの千葉県の労働環境の状況が続けば、きっととりかえしがつかない事故や事件が起こるのではないかと、現場にいた感覚から感じている。

だから迷っている。私が起こした裁判は間違っていないとは思っている。

でも、その影響をどうよい方向に向けられるか、迷っている。

この記事をここまで読んでくださり、ありがとうございます。

どうか一緒にこの問題を考えてくれると嬉しいです。

運営者について
飯島章太
飯島章太
フリーライター
元児童相談所職員での経験を活かして、子ども・若者のケアに関わる人たちに取材を続けています。著書に『図解ポケット ヤングケアラーがよくわかる本』 。
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