児童虐待防止の理解を助けてくれるおすすめの本

けあけあ
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0 はじめに 元児童相談所・一時保護所職員の経験から

 私は2019年4月〜2021年11月末まで、千葉県庁の児童相談所の一時保護所の職員として在籍しておりました。その中で、私自身が児童虐待への理解を進めるために、いくつもの本が助けてくれました。そこでその本の中から、いくつか紹介したいと思います。

1 高橋和巳、2017年『消えたい:虐待された人の生き方から知る心の幸せ』(筑摩書房・文庫版)

 こちらは友人から教えてもらった書籍でした。

精神科医である著者は、虐待された人たちが「死にたい」ではなく「消えたい」という表現で「自殺への欲求」を語ることに気付いた。そこには、前提となる「生きたい」がないのだ。彼らがどのように育ち、生き延びて、どんな苦しみを背負っているのかを、丁寧にたどる。そして、立ち直っていった経緯を明らかにする中で、人間の存在の不思議さと、幸せの意味に迫る。

                               裏表紙の内容説明『消えたい』より

 私が好きな文章はこちらです。この本の意義をとても表している言葉だと思います。

「『結局、他人と現実を共有できなかったことが、僕の苦しみだった、同じ言葉を使いながら違う現実を体験しているという孤独感だった』」

                            「文庫版あとがき」p225『消えたい』より

2 ブローハン聡、2021年『虐待の子だった僕』(さくら舎)

私が児童相談所に就職する前からの友人であるブローハン聡さんの著作。きっと本からも、彼の人柄が伝わってくるはず。

社会的養護の当事者活動を行う著者の、30年分とは思えない嵐のような人生の記録。

婚外子、無国籍、義父からの虐待、児童養護施設での日々、最愛のフィリピン人の母の死、日本人の実父や義父への憎悪、就職先でいきなり背負わされた多額の借金、孤独、周囲の応援の重圧、信頼できる大人たちとの出会い、「家族」への憧れ、義父との再会――

「母に危害が及ぶのが怖くて、虐待されていることを誰にも言えなかった」「施設に入って寂しくなるということはなかった。それまでもずっと孤独だったから」「施設は虐待されない安心・安全な場所。帰る場所がなくなる、施設退所後のほうが大変だった」

淡々と語られる言葉の数々。傷を負った子どもは、どのように過去を糧にし、どんな社会を思い描いて進むのか。世の中にいる、無数の虐待被害者・社会的養護経験者のうちのひとつの声を、届ける。

                                 「本書の内容」さくら舎HPよりhttp://sakurasha.com/2021/10/%E8%99%90%E5%BE%85%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F%E5%83%95/

私の好きな一節も引用します。大人も子どももどっちもが幸せであることの重要性を感じさせてくれます。

「何かつまずくことがあっても、いっしょに考えて手を差し伸べてくれる社会であれば、大人は安心して暮らすことができる。そして、大人が心豊かでいられたら、子どもたちも幸せでいられる。  そういう社会を築くことが大事だと思うんです。」

                                  『虐待の子だった僕」p223

また、ブローハン聡さんたちが立ち上げたYoutube番組でも、いわゆる児童虐待を防ぐための取り組みを多く紹介しているので、よかったらご覧ください。

3 田中れいか、2021年『児童養護施設という私のおうち』(旬報社)

私が児童相談所職員になって悩んでいたときに、講演会で田中さんとお会いしました。社会的養護・社会的養育をわかりやすく多くの人に伝えたいという、やさしく熱い思いを持った方でした。

児童養護施設=「かわいそう」はもう古い!

児童養護施設をアップデートする、あたらしい「社会的養護」入門

「休日は何してるの?」 「おこづかいはもらえるの?」 「親とは会うの?」

みんながギモンに思う、施設のリアルな生活・進学事情・親との交流・退所後の課題など、わかりやすく解説。

児童養護施設職員、学校教員、行政……子どもに関わる人の声もあつめました!

施設出身モデル・田中れいかさんの入所経験をもとに、ライフヒストリーに合わせて、児童養護施設のくらしを描きます。

         「この本の内容」旬報社HPより https://www.junposha.com/book/b596804.html

以下の一節は、田中さんの、わかりやすく伝えるという思いが伝わる文章だと思っています。

 そこで、詳細でなくてもざっくりと知りたいという方に、私のライフストーリーを読み物としてたどりながら、「児童養護施設」について知っていただけるようなコンテンツを作らなければ!と思い立ち、このような本をつくりました。
 役に立ちたい、知りたいという気持ちがあっても、どうしたらいいかわからないというひとが 大勢いらっしゃいます。そんな人が、実際の生活や具体的なケースを知ることで、自分の頭の中の「児童養護施設」というイメージを超えていくお手伝いができればと思います。

                             『児童養護施設という私のおうち』p4

また田中さんが運営する「たすけあい」という社会的養護を専門とする情報サイトも、わかりやすく説明されているので、こちらもご覧ください。

たすけあい|社会的養護専門情報サイト

4 おわりに

児童虐待は、確かに重く、深刻な問題だと感じるかと思います。一方で、上で挙げた作品は、深く読む人の心に残りながら、理解することが児童虐待の予防であることを、教えてくれるような書籍です。どれもおすすめの作品ですので、ぜひお手にとっていただければと思います。

運営者について
飯島章太
飯島章太
フリーライター
元児童相談所職員での経験を活かして、子ども・若者のケアに関わる人たちに取材を続けています。著書に『図解ポケット ヤングケアラーがよくわかる本』 。
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