裁判ブログ編
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児童相談所一時保護所へのソーシャルアクションを考える〜「知る」アクションとはなんなんだろう

けあけあ
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0 結論

 ソーシャルアクションとしての「知る」とは、自分ができる小さな一歩目のアクションを考えるための「情報収集」という意味に近い。ただし自分を大事にしていることが大前提。

1 問題意識:社会課題を「知る」とはなんだろう

 よく社会課題を解決するためのアクションとして、まず「知る」ことが大事であると強調される。それは確かにそうだ。だが一体ここで言われている「知る」とは何を意味するのだろうか

 本を読めば「知る」ことになるだろうか?存在を知っていれば「知る」なのだろうか。身近な人にきけば「知る」なのだろうか?

 児童相談所の一時保護所へのアクションを考えるときに、いったい何を「知る」ことが重要なのだろうか。児童相談所の一時保護所は、いくつかの理由から「知る」ことに難しさが伴う。

 それは一時保護所が、そもそもどういう場所であるのかイメージがつきにくいこと、情報があまり表になっていないこと、自ら体験したり親しい人が当事者でないと自分事の問題だと意識しにくい等が「知る」ことを難しくさせている。

 ではいったい何を「知る」ことが、児童相談所の一時保護所へのソーシャルアクションとして重要なのだろうか

2 自分がアクションを起こすための「知る」 

 結論を先にいえば、「自分が何ができるのだろうか」と考えるために情報収集・リサーチすることが、そソーシャルアクションとしての「知る」ということだろう。

 では何を「情報収集」をするかといえば、その社会課題は何が問題となっているのか、という一見ネガティブに見える情報だ。
 社会課題におけるソーシャルアクションは、課題があり誰かが被害を受けているがゆえに求められる。そのため、まず何が課題となっているのかについて「知る」ことは欠かせない。

 また何が課題であるのか情報収集する中で、どの点に自分が問題意識を持っているのかがわかってくることも重要だ。社会課題を知ることで、自分の価値観も浮かび上がってくる。

 いったい情報収集している自分は、何に関心があり、何を問題だと感じているのか、そしてそれは自分のどんなバックボーン、経歴、経験に由来しているのかといった自己分析が、とても大事になってくる。この自己分析をすることで自分の強みを活かしたアクションが見えてくる可能性が高まる。

 このネガティブな情報の収集と自己分析を重ねた次には、その課題に既にアプローチしている先人たちの事例が重要だ。ここではポジティブな「情報収集」も大切になってくる。そのポジションなアクションの事例から、自分がどんなアクションを起こせばいいかというヒントが得られるはずだ。
 こうして自分なりのアクションを考えることが、その問題について深く「知る」ことにつながる。

3 ただし、必ず自分を無理させないこと

 社会課題を深く「知る」中で、私が最も重要だと考えているのは、社会課題を深く「知る」人たちのメンタルヘルスの問題だ。

 情報収集したり、アクションを考えたり、実際に行動したりすればするほど、自分がしんどくなったり、辛くなったりする場面に出会うだろう。それは決して、あなたのせいではない

 私の身の周りでも、ソーシャルアクションとして行動する人たちは多くいる。一方で、自身がメンタルヘルス不調になったり、燃え尽き症候群になったり、体調を崩したりする人が。極めて多い。

 それは社会課題が、社会の構造や歪みに由来するからだ。社会課題を「知る」ということは、少なからずその社会課題の中に自分の身を置くことになる。少しずつ自分自身が社会課題の当事者になっていく

 こうして社会課題に向き合えば向き合うほど、他人事ではなく「自分事」になっていく。自分自身の問題として向き合わざるを得なくなる。社会課題に自らも巻き込まれていくのだ。それが社会課題を解決することを難しくさせている。

 確かに自分の生活を犠牲にしながら、身を粉にしながらアクションを起こすタイミングも大事なのかもしれない。一方でアクションを起こした人が無理をしたり、自己犠牲をしたり、むしろ社会課題に巻き込まれていくということがあれば、それは根本的な解決方法ではない

 だからこそ、社会課題にアクションしようとする人たちにとって最も重要なことは、いかに自分を大事にし、余裕が生まれた分があれば、その分で社会課題に取り組むということだ。

 もちろん社会課題に真剣に向き合うこと、自ら社会課題に巻き込まれながら課題を「自分事」として引き受けることは重要だ。一方で、自分が安全な場所にいながら、「他人事」として考えることは、アクションを長く続けるためには必要なことだ。

 社会課題は、一朝一夕で、すぐに解決できるものではない(だから社会課題になっている)。そして1人では決して解決できない。誰かと一緒に取り組んだり、先人からバトンを受け継いだり、後世に知見を残したりすることで、ようやく少しずつ解決されていくに過ぎない。

 だからこそ、社会課題を「知る」中で重要なことは、いかに「自分事」と「他人事」のバランスをうまくとりながら、自分に無理なく社会課題に取り組んでいくかことが、これから必ず重要になる。

 それは児童相談所の一時保護所に関心をもって、アクションを起こしたいと思う人にとっても同じだ。一時保護所について知ると、そのあまりに複雑な問題が絡まっていて、問題のあまりの大きさに、驚き、失望し、絶望することもあるだろう。

 でも、この一時保護所の問題についても、少しずつ少しずついろんな人が関わったことによって、前進してきた。この多くの人が、自分ができる役割を少しずつでも果たしていくことで、全体的に方向をよくしてきたことが、希望だと思う。

 だからこそ、無理してアクションはしないでほしい。自分が幸せだと思える生活をしながら、この余裕を誰かのために行動したいなと思ったタイミングでいい。もちろん社会課題で被害を受けている人たち・子どもたちを助けたいという気持ちはわかる。でも、アクションを起こしたいと思ったあなたのことも大事だ。そんな思いをもっている人たちがこの世の中に存在しているだけで、大きな希望だ。その希望がこの先続いていくためにも、どうか自分の無理ない社会課題との関わり方を模索していただければと思う。

運営者について
飯島章太
飯島章太
フリーライター
元児童相談所職員での経験を活かして、子ども・若者のケアに関わる人たちに取材を続けています。著書に『図解ポケット ヤングケアラーがよくわかる本』 。
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