研修なしで児童相談所・一時保護所で働くことの危うさ〜千葉県・児童相談所職員2〜5日目〜
1 入庁翌日から、研修なしで通常勤務
シリーズ「なぜ元職場の千葉県・児童相談所に裁判を起こしたのか」の職員時代の勤務編です。
前回は、千葉県庁に合格してから入庁式までの間ですでに感じていた違和感について記事にしました。
4月1日に千葉県庁の入庁式を終えて、配属先の一時保護所で説明をうけた私たち新入職員は、翌日から通常勤務が始まりました。
そのときを振り返りながら、研修なしで一時保護所で働くことの危うさについて書いていきたいと思います。
2 研修の意味
「2日目無事終了。確かに仕事は忙しいけど、子どもはみんなかわいく、仕事やっていける勇気をもらった。ありがたい仕事だなと思う。
(4月2日日記より)
明日はお休み(シフト制なので、土日ではなく、ある程度の間隔で一日ずつ休みがある。連休はほぼないとのこと)。休みって何したら良いんだろう・・・」
入庁日翌日から通常勤務がありました。仕事を覚えながら、子どもたちと関わっていた1日でした。
まず私にとってはそれは衝撃でした。新入職員とはいえ、子どもたちにとってみれば、他の職員と同様「じそうの人」です。
児童相談所の一時保護所は、虐待や非行、障害など様々な背景を持った子どもたちが入所する場所です。子どもたちは家庭などで一度傷ついた経験を経て、一時保護所にきます。
そこで最も大事なことは、まず職員が子どもたちを傷つけないことなはずです。子どもたちは、家庭から離れた場所一時保護所で、初めて他の大人に出会います。その大人が、自分を傷つけることがあれば、子どもたちは児童相談所の職員を信頼しなくなるでしょう。もっといえば、社会にいる大人すら信頼できなくなることもあるでしょう。
そのため千葉県が職員の研修をしないまま、子どもたちに直接関わる仕事をするというのは、非常に危険だと感じました。そして私自身、意識しないところで子どもたちを傷つけないかととても怖かった記憶があります。
3 職員は、最初から専門知識を身につけているわけではない
職員も、入庁時点で必ずしも専門知識を有しているわけではありません。
千葉県の「児童指導員」職で求められていた資格は、「児童指導員任用資格」でした。この資格は、例えば大学で社会学・社会福祉学・教育学・心理学を専攻していれば、卒業と同時に取得できます。
そのため入庁時点では、児童相談所や一時保護所で求められる知識や経験を有しているわけではないのです。だからこそ研修が必要だと思っています。
入庁後、確かに一般行政職員と同様の研修を受ける機会はありました。それは千葉県庁新入職員、全員がうける研修であるため、社会人としてのマナーや行政文書の書き方などが内容です。
一方で児童福祉司になるための研修は、5月終わりごろからありました。千葉県の「児童指導員」種は、一時保護所を1年経験すると、児童福祉司に異動となることが大半であるために受講することになっています。内容は、ケースワークの技法などです。
ですが、そもそも児童相談所はそれぞれの職種によって役割が異なります。児童福祉司は「社会診断」、児童心理司は「心理診断」、医師の「医学診断」、そして一時保護所の職員の「行動診断」など、専門職員がそれぞれ診断をして持ち寄り、総合診断をするのが児童相談所の役割です。
一時保護所が一時保護所の研修を受けられず、児童福祉司の研修を受けるというのは、全く問題があるでしょう。一時保護所職員の経験は、児童福祉司になるための手段というわけではないはずです。
ちなみに以前は1日だけ一時保護所職員専用の研修があったそうなのですが、一時保護課長によれば「シフトが埋められなかったので、今回は活かせられないです」と言われていました。
何度もいうように、研修は本来子どもたちと接するために、子どもたちを傷つけないために必要です。それが、人員不足のためシフトを埋められないので、研修に行かせられないというのは本末転倒なのです。
4 入庁して5日目、同僚職員から心配の声があがった
「5日目、千葉県職員の研修に参加。公文書の書き方や個人情報保護・情報公開請求について学ぶ。行政文書を書くことも結構あるのだろうか。案外行政文書の書き方は興味深かった。
(4月5日日記)
その後、歓送迎会にも参加。おそらく良い職場なのだろうということが伝わってくる。
ただ正直、私の中でも同僚の中でも、いくつかの場面で「これはどうなの・・・?」という思いが募り始めている。やるしかないのはそうかもしれない。が、このままでは不健康な気もする。身体を崩すのが先か、ここを去るのが先かと私達は心配している。
とりあえず、お互い言いたいことを言っていこうということと、仕事の人以外でも話を聞いてもらおうと話して今日は解散した。」
休憩時間もなく私たちは1日ノンストップで働き続けていました。
定時は8時半から17時15分でしたが、上司からは「新人は8時半より前にきて、机など綺麗にした後に、着替えを終えて引き継ぎ記録を見終えるように」と言われていたので、朝8時には到着することが多かったかと思います(早くきても残業代は出ませんが)。
定時が始まると、子どもたち30人〜40人分の夜勤者からの引き継ぎが始まり、子ども一人につき10秒ほどの共有があったのち、子どもたちとの学習の時間を過ごします。12時には子どもたちと一緒にごはんを食べ、午後は掃除、レクリエーション、おやつ・お風呂の準備などてんやわんやします。16時を過ぎてようやく事務室で記録を書きはじめ、いつの間にか定時は過ぎています。
新人なので記録を書くのに慣れていないため、大体19時ごろまでかかって記録をかきます。定時を過ぎて記録を書き終えて帰ろうとすると、先輩職員から「こういうときには先輩より早く帰るんじゃなくて、先輩に『他に仕事ないですか』ときいてから帰ってください」と指示もあったので、定時で帰ることができることは稀です。
また新人職員は、学習担当もしていたため、学習準備を残業時間中に行ったり、プリントの丸つけなどもします。
新人が通常帰れるのは、大体20時前後だったかと思います。朝8時〜夜20時、かつ休憩時間もなく12時間通しで働き続けていたため、新人にとってはこれは心身が持つだろうかと心配するのも無理はなかっただろうと、振り返って思います。
5 終わりに
勤務から数日経ち、心身の心配をせざるを得ない状況になった新人職員の私たちでしたが、さらに一時保護所独自のルールなどへの違和感も持つようになります。その辺は次の記事に書きたいと思います。
ちなみに研修がないのが不安だった私は、以下のような書籍で通勤時間などで知識を身につけるようにしていました。よかったらこちらもご参照ください。
6 あとがき
ちなみに研修自体が仕事をこなす上で重要かと言われれば、最低限の知識や想像力を身につけるために必要だと思っているくらいの重要性だと思っています。実際には勤務するなかで経験を積んだり、知識を身のあるものとして身につけたりすると思いますので。
ただ、だからといって研修が全くないというのは問題だと思っています。それでは最低限の職員の質の保証ができないと思います。この職員のボトムアップが研修の意味だと思っています。