支援者の支援
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児童心理治療施設のお話から職員のケアを考える〜こどもの心のケアハウス嵐山学園早川洋さんの講演から〜

けあけあ
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1 今回のご講演の概要

主催:NPO法人さいたまユースサポートネット

講座名:連続講座2023「子どもの貧困から15年、こども家庭庁に求めるもの」(概要はこちら)の第8回「児童心理治療施設から見た『子どもを取り巻く社会の変化』~『失われた20年』とその再生」(こどものこころのケアハウス嵐山学園施設長 早川洋氏) 

日時:2023年12月12日(火)15時〜17時

場所:NPO法人さいたまユースサポートネットCommons Cafe(HPはこちら

最寄りは大和田駅
ここがCommons Cafe。とてもおしゃれで、落ち着く雰囲気のカフェだった。

2 早川氏のお話から学んだこと

①子どもの貧困は「関係性の貧困」であること

②児童心理治療施設は、社会の急激な変化により不適応を起こす子どもたちのニーズに合わせながら、一貫して「安心して普通の生活をする」ことを重視し続けてきた。

③ゆえに職員としては、子どもたちと関係性を築くために、根気強く、継続的に関わっている。

3 早川氏への筆者の質問

質問:フリーライターで元児童相談所職員でした飯島と申します。特に職員の育成と職員へのケアの視点で2点質問できればと思います。

 1点目は、根気強く、継続的に子どもたちに関わる、職員のケアはどのように行っているでしょうか。職員も子どもたちのニーズに合わせて、臨機応変にあり方を変えてきたかと思います。ですが、一方で職員の定着率はあまりよくないのが現状かと思います。その一因に、特に今の20代〜30代の職員は、失われた20年で関係性の貧困の中で生きてきた世代です。そうした関係性の貧困を生きてきた職員が、長く仕事を続けるためにはどのようにケアされるべきでしょうか。おそらく「支援者同士も良好な関係性を保つ多職種チーム」が鍵なのではないかと思いますので、少し詳しく教えてください。

 2点目は、児童心理治療施設の職員はどのように専門性やスキルを身につけてきて、これからどのように身につけていくことが望まれているでしょうか。お話の中で、児童治療心理施設は社会が変わるにつれて変わってきた子どもたちのニーズに合わせて、施設のなかで「安心して普通の生活をする」ことを続けてきたというお話がありました。そこで職員は環境を構成しているかと思いますが、職員はどのような専門性を身につけてきたか、おそらくアタッチメント、子どもたちや職員同士の関係性を作る力についてどのように身につけてきたか、これから身に着けるべきか教えてください。

4 早川氏の回答要約

職員養成に関して

早川氏:座学で身につけられるものは多くないというのが正直なところ。児童心理治療施設は感情面について扱っている施設であるがゆえに、非認知的な感情面のトレーニングが必要になる。座学で勉強したからといって、感情面が強くなるわけではない。非認知能力のトレーニングは、子どもたちにおけるトレーニングと似ている。学園のモットーに「共育」というものがある。子どもたちと共に育つこと、自分達も未熟だから一緒に頑張ろうというのが共に育つ。私たちもまだまだ。至らない部分がある。職員はその中で成長したいという人の集合体であると思っている。  

 なので職員の育成としてはOJTが基本的に大きい。現場からすると職員の育成について重要なのは2つ。1つは、事例検討。こどものことをわかりたい、知りたいためには必要。そこで、理解するのを助けるSV(スーパーバイザー)の存在が重要だが、数が足りない。一方でSV受けたい人がめちゃくちゃいる。もう一つは、交流、つまり施設を超えた職員のつながりが重要。よく言われる職員としての資質というものは、次の3つがあれば十分。1つは最低限の倫理、2つ目3つ目は体の健康と心の健康。そうした職員が交流して、閉じないことが重要。これは医者の育ち方と似ている。

職員のケアについて

 職員のケアについては、外部で心理面接とか管理職が面接とかになりがち。でも重要なのは現場で職員同士が「聴き合う」こと。職員同士で話を聞ける職員は子どもの話をきける。いろんなところで、「聴き合う」ことが展開していくと良い。

 施設長とか医者だとハードルが高いけれど「1年目は泣き言いっていい」とかいう役割としてある。具体的には年2回の、1対1で、話し合うことを大事にしている。

5 筆者の感想

 社会の急激な変化についていくことが難しくなった子どもたちのニーズに合わせつつ、「安心して普通の生活をする」ことを大事にしてきたのが児童心理治療施設だ(くわしくは全国児童心理治療施設協議会のHPをご覧ください)。

 施設は、重要な取り組みとして持ちつつも、1980年代から2000年後半ごろまで、社会保障費の子ども・家庭への予算があまりに割かれてこなかったことを背景に、職員が育っておらず、人材が不足しているのが現状だとのこと。

 時代によって子どもたちのケアをおこなってきた職員もまた社会の急激な変化に対応すること時代が大変であることは、想像に難くない。

 早川氏は、これからの職員への育成やケアについては、OJTだけでなく、施設を超えた交流や事例検討、そして職員同士が「聴き合う」ことを大事であると語った。

 私も一時保護所の職員時代に、子どもたちの処遇を決める意見書を書くときに、児童心理治療施設への入所を検討した子どもたちがいた。だが実際職員として、児童心理治療施設がどのような現状であったのか、理解が足りていなかったとも思う。

 児童心理治療施設だけでなく、社会的養護の施設だけでなく、子どもに関わる職員同士が、自分の所属する施設を超えて、子どもたちのことを考え合ったり、むしろ職員同士が自分達の悩みを含めて「聴き合う」ことが、結果的に子どもたちの話を「聴く」ことができ、関係性を築くことで、職員も子どもも、関係性の貧困を乗り越え、「共に育つ」ことができるのだろうと、早川氏のお話を聞いて感じた。

運営者について
飯島章太
飯島章太
フリーライター
元児童相談所職員での経験を活かして、子ども・若者のケアに関わる人たちに取材を続けています。著書に『図解ポケット ヤングケアラーがよくわかる本』 。
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