児童相談所職員だった私が元職場の千葉県を訴えたわけ
1 児童相談所の労働環境を改善し、子どもたちのよりよりケアにつなげるため
2022年7月、元々千葉県の児童相談所の職員であった私は、千葉県に対して、休憩時間中の労働に対する未払い賃金など約1200万を請求する裁判を起こした。
まず伝えたいのはなぜそんなことをしたか、である。それは、千葉県をはじめとした、児童相談所の職員の労働環境をよりよくすることが目的だ。そして、1人でも多くの子どもたちに、児童相談所職員によってより良いケアが届くようにしたいという想いからだ。
2 全ての一時保護所が悪いわけではない、でも
詳しくは、私が提訴の3ヶ月後に書いたこちらの記事を参考にしていただければと思う。
「ここは刑務所みたいだ」施設で泣いた子ども、背景に過酷すぎる児相の労働環境 元職員が千葉県を提訴した理由 – 弁護士ドットコムニュース
提訴した大きな理由は、児童相談所が子どもたちを一時保護する「一時保護所」の子どもたちの状況と職員の窮状を、何もしないことができないと思ったのが理由だった。
もちろん、全ての一時保護所がこうあるわけではない。また私が在職していた2019年4月から2021年11月、そこから2年以上が経っているため、千葉県の状況も変わっているかもしれない。
一方で、この「一時保護所」の状況は、数十年前から人員不足だと言われ続けてきた。また「一時保護所」を経験した子ども・若者・経験者からの声は、何度も何度もメディアに取り上げ続けられてきた。何度も何度も勇気を出して、一時保護所の状況について声をあげた人たちがいるのにも関わらず、なぜ一部の「一時保護所」ではいまだに、「つらかった」「傷ついた」「家の方がよかった」と言う子どもたちがいるのか。変わる契機は何度も、 何度も、いくらでもあったはずだ。
よく「それは一部の児童相談所の話でしょ」「良い一時保護所もあるのだから、それをまるで全体のように扱わないでほしい」という批判がある。
でも子どもたちは、入ることができる児童相談所・一時保護所を選べない。例え、一部の「一時保護所」であっても、子どもたちからすれば、それはとても怖いことだろう。保護されることすら、ためらう可能性がある。
だからこそ、この一時保護所の問題は、決して一部の問題だけではない。一時保護所・児童相談所全体の信頼に関わる話だと強調したい。
3 誰かを責めたいわけではない、だからこそ司法に頼る
とはいえ、国も自治体も、児童相談所も、その職員も何もしてこなかったわけではない。今年には、これまでなかった(それも驚きだが)一時保護所独自の運営基準も策定される予定だ。少しずつ一時保護所が変わってきていることも事実だ。
千葉県もまた、2021年に知事がかわり、児童相談所をよりよく改善を進めたり、児童相談所が関わった子どもたちの支援などにも取り組みつつある。
何より現場の職員は、人員も予算もなにもかもが足りない中、なんとか奮闘して、子どもたちを守ろうとしている。
今私は千葉県に対して裁判を起こしているが、それは千葉県が悪いとか、管理職が悪いとか、誰か特定の人たちを責めたいわけではない。これは確実に言える。
誰かが悪いわけではなく、問題は仕組みなのだと思う。以下の記事に、書いてもらったが、行政機関はこれまでの慣例や前例を重んじるため、すぐに何か変わることが難しい構造や仕組みにある。
「夜勤は拘束21時間が通常です」 精神疾患で退職、県提訴の元児相職員が明かす「過酷な働き方」とその原因
誰かの一存で大きく変わったり、システムがなければ動きづらいなど、行政機関が大きくなればなるほど、変わること自体が難しい。そのため、なにかがおかしいとしても、そのまま動いてしまうが行政機関でもある(ざっくり、行政には間違いがないという前提で物事が進むことを「無謬性」とか言ったりする?)。
だからこそ、行政も別の権力からアプローチすることが必要だと思った。三権分立を定めているこの国の中で、私が個人としてできることは裁判という司法の面から、行政機関である児童相談所にアプローチすることだと思っている。
もちろんアプローチの形はさまざまあると思う。立法としての議会・議員、第4の権力としてのマスメディア、そして何よりこれを読んでくださっているみなさまの関心。そうしたそれぞれからのアプローチがあって、少しずつ児童相談所や一時保護所はよりよくなっていくと思う。
私が今回行っている裁判も、きっと最善の手段ではないとは思う。でも、できることは手を尽くしたいと思っている。どうぞ、暖かく見守っていただければありがたい。
児童相談所に関わる子どもたちによりよいケアが届くように、それぞれの場所から、一緒に頑張っていければと思っている。